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    小谷は房一に話しかけた。

    柳里恭りゅうりきょうの『雲萍雑志うんぴょうざっし』のうちに、こんな話がある。

    房一がそこへ出るのと、さつきの二人が表から入つて来るのと同時だつた。

    「何を云うとる。すまじきものは宮仕へ、といふぢやないか」

    「はあ!さう――ですね」

    「先生!」

    「あれは何でせう、知吉さんといふ人は悪く云ふと娘をひつかけて相沢の家に入りこんだやうなもんでせう」

    安政三年の初夏である。江戸番町の御廏谷おんまやだにに屋敷を持っている二百石の旗本根津民次郎は箱根へ湯治に行った。根津はその前年十月二日の夜、本所の知人の屋敷を訪問している際に、かのおそろしい大地震に出逢って、幸いに一命に別条はなかったが、左の脊から右の腰へかけて打撲傷を負った。

    「いや、さういふことは人によつてはあるんだよ」

    と、云つた。彼は殆ど房一の前に立ちはだかつた恰好だつたが、もぢもぢして、何だか自分を小さく感じていた。房一と目を合せると、すぐに外らせて、急にぐつたりとした様子になりながら、

    と訊いた。

    「今、あんたの便をしらべてみたがね」

    私は朝と夕方と真夜中に入浴する。朝、ぬるいうちに私がはいり、そのあと熱くして家族がはいる。それをほッとくと、夕方、私には手頃のぬるさとなっている。

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